【マネー・ロンダリング罪-捜査のすべて】城祐一郎
総論
・定義:犯罪等の違法行為によって得たことで表に出せないような資金を、合法的に使えるようにするために操作や作為をし、それが合法的に獲得された正当な資金であるかのような外観を作り出す行為全般。
・歴史:米国で、麻薬取引で得た莫大な資金を背景に、地下社会から出て合法的な社会活動をし始める。
→没収規定の強化や国内外の一定額以上の送金時の届出義務が制定された。
→1986、マネロン規制法制定。特定違法行為に起因する収益であることを知りながら、この収益を伴う経済取引を行うと処罰される。
・国際的枠組みの必要性
→1988年ウィーンにおいて麻薬新条約。1991年国内で麻薬特例法(わが国初のマネロン罪)
→1989年FATF設立。1990年40の勧告、1999年組織犯罪処罰法制定(処罰範囲を一般刑法犯に広げる等)
→2000年パレルモ条約(国際組織犯罪防止条約)署名→2017年組織犯罪処罰法改正
→2001年米国同時多発テロ、FATF「テロ資金供与に関する8つの特別勧告」で(不法収益に限らず)送金先の問題がマネロンに組み込まれた。
・2007年犯罪収益移転防止法制定
・金融機関の本人確認義務や疑わしい取引の届出を同法に移行。同時に非金融事業者にも届出義務。
・2008年FATF審査→多くの点が最低点。2014年名指しの声明が公表。
預貯金口座開設等をめぐる諸問題
・犯罪収益を安全に確保するには預貯金として保管することが好ましい。
→偽名、借名口座の開設防止が必要
・本人性を偽って口座開設、第三者に譲渡する意図で口座開設→1項詐欺。
・預貯金通帳等の不正譲渡・譲受罪(犯収法28,29条)
・他人名義の口座から現金を引き出すこと→窃盗罪
特殊詐欺
・定義:被害者に電話を架けるなどして対面することなく欺罔し、指定した預貯金口座への振込その他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪の総称。
・高度に組織化され突き上げ捜査が困難(上層部に捜査が及ばない)。
疑わしい取引の届出及び預貯金口座凍結
・定義:金融機関等が、マネー・ロンダリングの疑いや犯罪収益等がかかわっている疑いのある取引を、資金情報機関(FIU)に提出し、集められた疑わしい取引の届出情報を各種の捜査機関等に提供し、捜査の端緒に役立てる制度。
・「疑わしい取引」は、一定の前提犯罪が行われていたことを認識している必要がないことはもちろん、当該顧客の職業、事業内容等から見て、合理性のない高額又は頻繁な取引であることなどの情報を総合的に考慮して、何らかの前提犯罪の存在を疑わせるものであれば該当する。
・H19降込詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)
→警察などの情報提供により口座凍結がなされる。(降込め詐欺、闇金、恐喝)
マネロン行為の処罰
・3類型
①犯罪収益等を用いて、法人等の株主等の地位を取得するなどして事業経営を支配しようとすること(組織犯罪処罰法9条)
∵支配されることによって事業活動が犯罪その他不正な行為に利用されたり、事業経営に際して不法収益等が不法な競争手段に用いられ、法人制度に対する信頼を害する。
②犯罪収益、薬物犯罪収益等の取得や処分の事実を仮装し、または隠匿する(組織犯罪処罰法10条、麻薬特例法6条1項)
∵金融機関等を経由することによって、犯罪収益等をクリーンな外観を有する財産に変えて前提犯罪との関係を隠し、あるいは、これらの財産を隠匿する行為は、将来の犯罪活動に再投資されたり、合法的な経済活動に悪影響を及ぼすなどのおそれがある。
・具体的に禁止されている4つの行為
①犯罪収益等の取得につき事実を仮装する行為
ex 正当な事業収益を装って契約書、帳簿、伝票を作成。偽名を使って預貯金したり現金を仮装譲渡。
②犯罪収益等の処分につき事実を仮装する行為
ex 他人になりすまして窃取したものを売却
③犯罪収益等を隠匿する行為
ex 秘密保持の固い海外銀行での預金。
④犯罪収益等の発生の原因につき事実を仮装する行為
ex 拳銃取得費用を正常な経費として計上
・予備罪有り
③犯罪収益、薬物犯罪収益等を収受する((組織犯罪処罰法11条、麻薬特例法7条)
・「情を知って」「犯罪収益等を収受した者」
・犯罪主体は本犯者以外。
没収追徴制度
・刑法19条Ⅰにより没収できるもの。
①犯罪行為を組成した物 ex 賭博罪の賭金
②犯罪行為の用に供し、または供しようとした物 ex 放火に使ったマッチ
③犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
ex 通貨偽造罪の偽造通貨、賭博で得た金銭、殺人報酬である現金
④前号に掲げる物の対価として得た物
ex 窃取した現金で買った物、盗品等を売却して得た現金
但し、犯人以外の者に属しないか、情を知って獲得した場合に限る(19Ⅱ)。
・組織犯罪対策法、麻薬特例法では、この範囲が一部拡大され、かつ、一部必要的没収とされている。